ゼロベース思考から生まれたウオークマンに学ぶ、新機軸の立て方

こんにちは。小泉です。

今や、外で歩きながら音楽を聴くのは当たり前ですが、1979年にウオークマンという外でも音楽を聴くことができるデバイスは誕生しました。「1979年なんて、まだ生まれていない」という人も多いと思いますが、それまで外で音楽を聴くという概念がなかったのです。

ウオークマンは、「音楽は家で聴くもの」という固定概念を覆し、世界的なムーブメントを起こしました。そして、ソニー自体も世界的に有名な企業になりました。2001年に、スティーブジョブスがiPodをアップルから発売する、22年も前の出来事です。

この例は、「ゼロベース思考」を説明するときによく使われます。

ゼロベース思考とは、過去の成功体験から脱却し、目的志向になる、既存の枠を取り払い、斬新なアイデアを許容することです。

昨今、「イノベーション」など、これまでの考えを脱却した新しい考え方に基づいた事業開発を考える企業が増えていますが、こういった新しいことを考える際や、既存のやり方を変えたい場合には有効な考え方です。

かくいう私自身も、20年にわたってゼロベース思考を大切にして、改革や新機軸を求める様々な企業のコンサルティングをやってきました。

あたりまえを覆すのは割と簡単

新規事業開発のコンサルティングをしていると、「なにか面白いアイデアはありませんか?」と聞かれることが多いです。そんな時、私の場合、「ゼロベース思考」を活用して答えることがとても多いです。

ゼロベース思考において、重要なのは「あたりまえ」を覆すことです。

ウオークマンの例では、「音楽は家で聴くもの」→「音楽は外でも聴けるもの」ということになります。

他の例では、皆さんが日常的に飲むコーヒーがあります。これも、実はあたりまえを覆してきた歴史があります。

かつての喫茶店は、何百円も出してゆったりと座ってコーヒーを飲むというスタイルが当たり前でした。それを、テイクアウト主体のコーヒーショップを作った「ドトールコーヒー」、これまでのコーヒーのスタイルからホットミルクをエスプレッソに混ぜ込んで新しいスタイルを確立した「スターバックスコーヒー」、そして、皆が頻繁に利用するコンビニエンスストアでおいしいドリップコーヒーが手に入るようにした「セブンイレブン」。

結果から逆算するとよくわかるのですが、社会背景と、生活スタイルに沿った展開がされていることがよくわかります。

どういうことなのか解説します。

まず、今よりも時間がゆったり流れていたころは、喫茶店での時間もゆったりとながれていて、くつろぐことが喫茶店を利用する理由でもありました。

そして、次第に社会全体が忙しくなり、都会に集うビジネスマンを中心に、時間に追われる生活となった人のために、ドトールコーヒーは、テイクアウトというスタイルを定着させました。

そして、その逆張りともいえる、これまでのコーヒーとはあり方を変え、バリスタと呼ばれるおしゃれなスタッフが、一杯ずつカフェラテを作ってくれる、お店の中もおしゃれになっていて、その空間にいること自体が価値になるスタイルを定着させたスターバックスコーヒー。

スマートフォンも登場し、Macをパチパチやるスタイルがかっこいいと、スタバに集うスタイルも登場しました。

その一方で、長引くデフレもあり、一杯のコーヒーに時間とお金をかけたくないという人も増えたこと、都心では少し歩けばコンビニがあるという状態から、差別化のこともあり、通常、上質な喫茶店で飲むクオリティのコーヒーをコンビニで提供し始めたセブンイレブン。

と、我々は、次々あたりまえを覆していく状況を目の当たりにしてきました。

結果論だといわれればそこまでなのですが、これらは、それほど難しい発想だったのでしょうか。

これだけ受け入れられている変化である以上、多くの人が考え付いたことであったはずです。

ゼロベース思考と、新機軸の壁

では、なぜ多くの人が思いつくようなことが、自分の会社では実現されないのでしょうか。

それは、意思決定者はじめ、多くの人が現状の変化を好まなかったり、自分のあたりまえに沿った統計データを集めようとするからです。

どこの企業でも自社の事業ドメインに関する統計データを見ながら次世代の作戦を練るわけですが、その見ている統計データ自体がすでに見る人にとって都合の良いフィルターにかかっている現場をよく見かけます。

よほどトップダウンの企業でない限り、会議は合議制ですから、もっともらしい、しかも(その場の参加者にとってあたりまえなので)納得感のあるデータが提示されたとき、ゼロベース思考から発想されたアイデアは、跡形もなく壊されます。

そこで、最近ではこの壁を崩すために、「個別の人の言い分」に着目したインタビューが行われます。これまで「多くの人の言い分の統計」であったものから、「ある誰かの不満を解決する」という考え方を行うのです。

「ある誰かの不満を解決する」ということは、同じ不満を持つ多くの人の不満を解決するという理屈なのですが、それ以上に、あたりまえに流されなくなるという効果が得られます。

昨年から今年にかけての小売流通業の世界的なキーワードはフリクションレス(摩擦レス)です。今後は利用者に寄り添ったゼロベース思考での発想が重要視されていくでしょう。

最後にみもふたもないことを言うと、結局事業というのは「やってみないとわからない」という側面があり、未来を予測する人も、全体的なモメンタムを予測することができているだけで、個社がそのモメンタムに乗ったからと言って、成功するか失敗するかを予測することは不可能なのです。

何を信じて、何を信じないか、ということはそれぞれの人の自由なのですが、こういう考え方も取り入れてもらえるといいなと思います。

小泉耕二

1973年生まれ。IoTNEWS代表。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。Yahoo! ニュース公式コメンテーターなど。

大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。

著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来予報」がある。