DXがうまく行かないシンプルすぎる理由

こんにちは。小泉です。

いろんな企業で現在DX(デジタルトランスフォーメーション)への取り組みが行われています。しかし、私がお話を聞く限り、企業全体での変容というより、個別のビジネスプロセスにおける変化をイメージされている企業がまだまだ多いなと感じております。

DX(デジタルトランスフォーメーション)の定義

いつも申し上げていることですが、DXの定義は、「デジタルによってビジネスモデルやビジネスプロセス全体を再定義すること」です。つまり、デジタルでトランスフォームする対象は企業全体なのです。

簡単に言うと、ビジネスモデルとは企業がどうやって儲けるか?ということです。そして、ビジネスプロセスとは、儲けるための業務プロセスのことです。

ビジネスモデル、ビジネスプロセスとは
ビジネスモデル、ビジネスプロセスとは

メーカーを例にして大雑把に言うと、ビジネスモデルとは、商品を作ってそれを販売して顧客からお金をもらうこと。

ビジネスプロセスは、材料を仕入れて、工場で商品を作って、物流網を使って顧客に届けること、となります。

話を戻すと、DXの定義は、「デジタルによってビジネスモデルやビジネスプロセス全体を再定義すること」ということなので、かなり大袈裟な話だなと思われたのではないでしょうか。

実際、私がこれをいうと、「現実的ではない」「できることからやらないといけない」と言われることも非常に多いのですが、私から言わせると、「大きな目標なくして、細かな改善は意味をなさない」となります。

DX(デジタルトランスフォーメーション)というキーワードが注目を集めた理由

前半は、DXのおさらいをするので、「そんなこと知っている」と言う方は、「デジタル技術とデータが変える不可避な流れに、我々はどう立ち向かうのか」のところから読んでください。

そもそもDXというキーワードが話題になっている大きな理由の一つとして、GAFAの隆盛があります。

GAFAとは、Google、Amazon、Facebook、Appleの4社の頭文字をとっているのですが、他にも、MicrosoftやTeslaなど米国西海岸発のテクノロジー系のスタートアップが世界中で活躍していることはみなさんご存知のことでしょう。

実際、いくつかのサービスはお使いになったことがあると思います。

そして、こういったフルデジタルで装備を構えた新興企業、デジタル社会を牽引する企業、こういった企業が一夜にして生まれ、ビジネスの常識をも変えているという実態をみて、多くの経営者が戦々恐々としたのです。

デジタルありきで作られた企業が既存業界を破壊した事例

実際、みなさんになじみのある企業を例にとって説明すると、Uberがわかりやすいといえます。

レストランから食事を運んでくれる「Uber Eat」が日本では有名ですが、Uberはその元となったサービスで、簡単に言うと「タクシー配車サービス」です。

これまでもタクシーの配車サービスはあったのですが、Uberはクルマを持たない企業としてスタートしたのです。

Uberアプリイメージ
Uber アプリイメージ ©️Uber

個人が所有するクルマをUberのスマホアプリから登録しておくと、所有者は個人の移動を助けることでお金がもらえる。

逆に、ある個人がどこかに行きたいとUberのアプリで行き先を登録すると、今自分のいる場所まで車が迎えにきてくれて、目的地まで運んでくれるサービスです。

これだけ聞くとただの「マッチングサービス」か、と思うかもしれませんが、実はUberの場合、「シェアライド」ができます。

シェアライドというのは、一台のクルマを2人までの複数名で利用することができて、それぞれ当然行き先は違うのだけど、一人で乗るよりは割安に届けてくれるのです。

でも、このサービス、安いのはいいけど、もし普通にいくより30分も遅く到着するとなったらどうですか?

私であれば、こんなサービス使いません。

そこで、AIが登場するのです。

Uberの配車サービスの仕組み
Uberの配車サービスの仕組み

Uberは、クルマを利用したい多くの人の位置情報と、利用者が行きたい行き先についてのデータをクラウド上に保持しています。

また、一方で、Uberに登録しているクルマが現在どこにいるのかも保持しています。しかも、それらのデータはリアルタイムに更新されるのです。

シェアライドを利用する際、どのクルマが誰を拾っていけば、一番効率的に目的地まで行けるのかを、Uberのシステムが考えるわけです。

その結果、一番効率の良いルートを弾き出し、あるクルマに顧客をピックアップをする指示を行います。

その結果、利用者は安く、早く目的地に到達でき、ドライバーは一人だけを載せるより割高なフィーをもらうことができるのです。

こういった顧客に対する利便性や、ドライバーに対するメリットを打ち出したUberは急速に広がり、タクシードライバーですらUberのドライバーに転身するという状況になったのです。

その結果、既存のタクシー業界は破綻しかけるところまで追い詰められました。この現象をみて、Uberのような企業をディスラプター(破壊的創造者)と呼ぶ場合もあります。

ディスラプターのビジネスが理解できたとして、既存事業者はマネできるのか

ここで、例えば、あなたがタクシー事業者の社長だとします。

果たして、現状のビジネスモデルをやめて、明日からUberのようなビジネスモデルに変えられるでしょうか?

これまで儲けてきたやり方を全て投げ捨てて、システムも一から作ってこのサービスを始めることは簡単ではないといえるでしょう。

でも、これをやらなければ、もしUberが日本で流行ると、既存のタクシー業界は駆逐される運命になるのです。

そして、そんな破壊的創造を行う彼らのような企業を「ディスラプター」と呼んでいるのです。

しかし、実際はこんなこと日本では起きていません。

なぜなら、タクシー業界の業界団体が、Uberが事業を日本でできないように圧力をかけているからです。

逆に言うと、こうでもしない限り、タクシー業界は壊滅的であったとも言えるでしょう。

ディスラプターに負けじと、DXに挑戦していくことに勝負をかけた事例

クルマ業界は現在、「CASE」という言葉で代表される変化が起きています。

「C」は、Connected(コネクテッドカー)、「A」はAutonomous(自動運転)、 「S」はShared(シェアー)、「E」はEV(電気自動車の略です。

自動車業界の大変革  CASEとは
自動車業界の大変革 「CASE」とは

一つずつでも大きな変化だと言えるのが、一気に4つ同時に変化しているわけなので、クルマ業界はとても大変な状況にあります。

特に、中国市場が立ち上がってきた状況下で、中国政府がEV車でないと中国国内では走れないという流れを作ろうとしていることから、これまではエンジン技術が高いことがクルマメーカーにとって競争優位性とされていたのが、一気にゲームチェンジしてしまう流れにあるのです。

EVでは、モーターと車輪があれば基本的には走り、その制御はどちらかというとコンピュータ上のソフトウエア技術が重要になります。その結果、これまで培ってきたエンジン性能によって変わる乗り心地や加速感といったノウハウは全く不要となり、EVが主流になると自動車業界の構造が、根本から覆ることになるのです。

また、新しい技術を活用するEVの世界では、新規参入への障壁も比較的低く、メルセデスやトヨタ、BMWといった既存のクルマメーカー以外の新興勢力が一気に登場するということもあり得るのです。

そして、既存のクルマメーカーがEVへの対応ができたとしても、CASEの「A」となる高度なAI技術に支えられた自動運転カーを作ろうと思うと、これまで社内にはいない知見をもつスタッフが必要になります。

さらに、モノを所有しない時代、「所有からシェアへ」という流れがある中では、高品質なクルマをつくったからといって、勝者になれるわけではないのです。

こういった状況変化に対し、トヨタは全方位で自分たちのあり方を変える戦略を打ち出してきました。

必要に応じて競合となるような企業と提携をしたりするだけでなく、富士山の麓にスマートシティを作ることで、さらなるゲームチェンジも起こそうとしているかのように感じられるのです。

変化を先読みし、現状を守るのと同時に先手を打つ。

もちろん、打った手がすべてうまくいくわけではないのですが、手を打たなければ変化についていけなくなり、淘汰されるのみなのです。

デジタル技術とデータが変える不可避な流れに、我々はどう立ち向かうのか

GAFA、そして、Uberのようなディスラプター、そして、CASEのような環境変化に対して対応しようと思うと、「これまでの常識なんて意味がない」「大きな変革が必要」と当然なるわけです。

しかし、具体的にどうなりたいのかがイメージできない経営者がとても多く、自分でイメージできないことを、謎に部下に丸投げするような事態も頻発しているわけなのです。

大きな目標というのは、DXによって得られるビジネスモデルやビジネスプロセスが変わった状態のことなのですが、これはその会社にとっての「ありたい姿」となります。

以前、下のようなつぶやきをしたのですが、「ありたい姿」ってどうやって見出せば良いのでしょう?

その答えを書く前に、もう一つよくある問題点について触れます。

現場の改善活動は DX (デジタルトランスフォーメーション)ではないのか

DXの話をするとき、良く出るのが、「デジタルをつかった改善活動はデジタルトランスフォーメーションではないのでしょうか?」という話題です。

これについても、以前Twitterでつぶやいています。

DXの定義が上でのべたとおりなので、そういう意味では、デジタルを使った改善活動はこれに含まれることになります。

つまり、とある部署の、とある作業の効率化といったプロジェクトは立派なDXプロジェクトだといえます。

しかし、このプロジェクトが、企業全体での再構築の中で意味をなさないのであれば、それは単なる思いつきであったり、局所最適な取り組みと言わざるを得ないのです。

DXにつながる現場の改善と局所最適の関係
DXにつながる現場の改善と局所最適の関係

DX 実現の1stステップは、全体目標を定義、そしてやるべきことを検討

DX のプロジェクトを始める前に、経営層の意思決定は欠かせません。

来るべき未来をどう捉えているのか?例えば、日本国内で事業を行っている企業であれば、30年後の2050年では、深刻な人口減少が見込まれているので、それに対してどう対応するのか、今の時点で検討が必要です。

なぜなら、2050年にいきなり人が減るのではなく、とうの昔に減少傾向は始まっているわけなのですから。

我が国における総人口の長期的推移

少子高齢化への対応一つとっても、必ずお題目にはそれがあるものの、最終的には売り上げ拡大施策を語っている戦略文書を良く見かけます。

マーケットが外部要因でシュリンクしていくわけですから、例えば社員一人当たりの利益を最大化して、一社の規模の利益を追うより、多くの企業とのエコシステムを構築して利益を最大化していく、新機軸に対応していく、という考え方もあるでしょう。

今時従業員数や売上額で偉そうにしている企業は、時代遅れとも言えるのかもしれません。

しかし、こういった感覚がいまだに経営層にない場合、そもそもの全体目標が大きく現実と解離した夢物語となってしまい、デジタルへの期待値も、単なる「希望的観測」に終わります。

そして、その希望的観測で描かれる幻想は、デジタルを取り込むことで、これまでとは全く違う新しい事業が始まり、デジタルの特性とも言える、グローバルでのビジネス展開ができるといった根拠のない妄想への進化するのです。

そして、経営者の根拠のない妄想は、役割に見合った小さな改善を積み上げている現場を疲弊させ、ひどい場合、「そんな改善では大きく変わらない」と低い評価を付けられてしまうこともあります。

「デジタルの使い所」や「共特化」など、経営者に必要な前提

こうならないためにも、経営者は「デジタルの使い所」を知るべきでしょう。

デジタル技術で登場する新しいサービスや技術そのものに振り回されることなく、それがどう使われると効果を発揮するのかということに焦点を置いて、デジタル技術の発展を学ぶべきです。

そして、政府資料などを活用して、技術のトレンドをマイルストーンとして整理して、どのタイミングでどんな状態になったら、自社をどうしようかという数年先を見通したプランを立てることが重要なのです。

「共特化」を知ると未来が見える

また、共特化と呼ばれる原理をしることも重要になります。共特化とは、ケータイの発展には、コンピュータの小型化高速化と、その処理を1日以上利用可能とするリチウムイオン電池の開発がキーとなっていたわけですが、このように、二つ以上の技術が進化することで大きくマーケットを切り開く可能性があることを知るということです。

スマートフォンにおける、共特化
スマートフォンにおける、共特化の例

2015年に発売された第一世代のApple Watchは、朝から晩まで丸一日ですら使えるかどうかわからない、という電池しか搭載していませんでしたが、現在は数日間は使えます。また、最近のシリーズでは常時時計の盤面が見えるようになりました。

時計ですから、電池が一日持たないなんてゆるされないし、今何時かすぐわからない腕時計なんてあり得ないわけですが、電池をセーブしようと思うとそうならざるを得なかったようです。こういったことも、一つ一つ解決されることで、マーケットシェアは広がるのです。

どんな会社も、一つだけの技術でやっていくのは難しい時代にさしかかっています。経営者が率先して技術のトレンドを見つめ、共特化可能な要素を見つけることで、他社に先んじて魅力的な商品やサービスを作ることも可能になるのです。

自社のビジネスモデルやビジネスプロセスは可視化できているか

さらに、共特化より重要なのが、現状のビジネスモデルやビジネスプロセスをテーブルに乗せることです。

大企業になるほどに、そのビジネスプロセスは複雑です。これをシンプルにモデル化し、テーブルに広げておくことで、自社のことを知ることができ、新しいデジタルトレンドへの対応案を検討することができるのです。

これらのことが、まとまっていれば、DX、DXと騒がなくても、デジタルに限らず、様々な環境変化を評価し、進むべき方向を明確にしてくことができるのです。

しかし、多くの企業の場合、ビジネスプロセスのコンサルタントを入れたりでもしない限り、ビジネスプロセスを表すフローズを持っているケースは稀です。

ビジネスプロセス図のイメージ
引用:Edraw (https://www.edrawsoft.com/jp/bpmn-diagram-examples.html)

現状を知るという意味でも、改善ポイントを明確にするという意味でも、必ず持っておくべきものだと思うのですが、現場任せの経営を長く続けてきたからか、経営層が現場のプロセスまでを把握しているケースはほとんどありません。

一方で、デジタルを前提としたビジネスモデルやビジネスプロセスを考えようとしたら、当たり前のことですがこういった情報なしには、検討を始めることもできないのです。

それは、地図も持たずに旅に出るようなものなのですから。

まとめ

DX(デジタルトランスフォーメーション)がうまくいかないと嘆く前に、準備が十分かを確認して欲しいものです。必要なものとしては以下になります。

  • 自社のビジネスモデルやビジネスプロセスを表した資料
  • デジタル技術のトレンドがわかる資料
  • 自社プロダクトやサービスにおける共特化が起きる余地の検討
  • あるべき姿を示す、ビジネスモデルやビジネスプロセスの案
  • デジタル/非デジタルを活用した、あるべき姿に向かう道筋の定義

これらのものは、常に更新し、状況変化に合わせて変えて良いものです。一度決めた中期計画を、計画の途中では変えられないという企業も多いのですが、デジタル社会の変化スピードは想像以上だと思うべきでしょう。

DXに取り組む際のメモとしてお使いいただければ幸いです。

小泉耕二

1973年生まれ。IoTNEWS代表。株式会社アールジーン代表取締役。
フジテレビ Live News α コメンテーター。J-WAVE TOKYO MORNING RADIO 記事解説。Yahoo! ニュース公式コメンテーターなど。

大阪大学でニューロコンピューティングを学び、アクセンチュアなどのグローバルコンサルティングファームより現職。

著書に、「2時間でわかる図解IoTビジネス入門(あさ出版)」「顧客ともっとつながる(日経BP)」、YouTubeチャンネルに「小泉耕二の未来予報」がある。